猫頭の文房ブログ

人間を獣頭人身で「分類」すると、私めは猫頭。その書斎もとい文房(自室)日常ブログ

『リアリズム絵画入門』

野田弘志さんである・・芸術新聞社 (2010)刊
9月にドキュメンタリーを見に行って、その苦行僧のような日常にびっくりしたが・この本にも
創作に生きるとは「死すべき人間の本質」を見渡すことができるような高みに自分をもたらす努力をすることだ、とある。
この本は絵を描く側の真摯・求道的なあり方を知らしめている。

realismの「re』はラテン語の「もの」という意味です。リアリズムというのは、もの主義とでも直訳すると、わかりやすくなるかも知れません
(p139)

目次読書・・
序章 なぜ今リアリズム絵画を描くのか
    手で描くことはまだ必要か 確かな現実を生きるために リアリズム絵画は生き方である
第1部 制作
第1章 絵画は写真とどう違うのか
    両眼で見るということ 写真は記号化された現実 膨大な情報を集める人の目 遠近法だけで絵は完成しない
第2章 制作入門篇 デッサンとは何か
    絵画を伴った哲学 木炭デッサン 基礎トレーニング 絵とは何か 陰影 理想の光源 立体構造 背景を描く 静物を描く 
    ケーススタディ 卵を描く 2次元と3次元 美しいとは何か ヴァルールの発生
第3章 制作心構え篇 視ること・考えること
    ケーススタディ 林檎を見る
第4章 本制作篇 油彩画で人間を描く 
    永山優子作品の構想から完成へ モデルを選ぶ クロッキーからデッサンへ モノクロームの利点
    構図を練る モデルとの対話 絵の具はシンプルに 油絵の具はオールマイティ 色彩ののせ方 個性より見えるままを優先
    影の中に在るもの 細部をどう考えるか 壁を人間と同じ密度で描く 
第5章 空間を描く フェルメールの「牛乳を注ぐ女」
    空間の密度を描ききった絵 すべてが絶対不可欠なもの 奇妙な形をした机 堆積し時間を封じ込める壁 「真珠の耳飾りの少女」は完成度に疑問
第2部 思索 
第6章 リアリズム絵画の歴史と思想
    ギリシア人のリアリズム思想 自然の本質に眼を向けた絵画史 数学を駆使する芸術 物と人間が隔てられた文化 物そのものに立ち向かう
    自我の闇に輪郭線を引く なぜリアリズムを日本で実践するのか 存在を実感するために
第7章 終わりなき創造 レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」
    リアリズム絵画の最高到達点 肌の下の温度を探るように すべてを知りつくそうとした芸術家 神の創造に近づくために 果てしなく筆を塗り重ねる 芸術における「完成」とは何か
第8章 死すべき命を見つめる
    信じるとは死すべき運命 死が見失われる現代 よりよく生きるための思想 なぜ髑髏を描くのか リアリズム絵画には異質の「無常観」 1年かけた絵を捨てる勇気 
    孤独を徹底的に突き詰める 死を前に芸術は何ができるか 存在の輝きを描かねばならない
第9章 存在の神聖を見るために
    怠惰な学生からイラストの道へ 画家にとっての幸運とは 好きなように描く難しさ 日本人だけに通用する甘えの構造 嫌われる骨を描く
    志ある若い画家たちに機会を 画家は二足のわらじを履けない
「あくなき厳密さ Hostinata Rigore」―レオナルド・ダ・ヴィンチの座右の銘
卵一個であろうと、それがそこにあるという実感を正確にとらえることは決してたやすいことではない(p011)
なぜ絵を描くのか・・「現実そのものを2次元の世界に創造するのだ」(p024)
「見る」のでなく「視る(凝視する)」 「描く」のでなく「創造する」(現実そのものを実体として創造しようとする心構え)
言葉によって張りつけられたさまざまな意味を、対象から一度はがしてみなければいけない(p025)
ヴァルール(色価)=色彩の明度(明暗の度合い)や彩度(鮮明さの度合い)によって、物や空間を秩序立てて描く考え方
ヴァルールの発生は常に描くことの目標となる(p052)
「物たちに対する、なんという敬意。どんなものにもその美しさがある。なぜなら、それは、存在すべき「唯一のもの」だから。それには取り換えのきかないものがある」(高村光太郎訳『ロダンの言葉抄』)(p060)
細密描写はリアリズムにあらず・・リアリズム絵画では、細部は常に全体の中に在る(p064)・・細部は常に全体の構造と呼応したものである。細部は全体を強化するもの
金言としている言葉:「神は細部にあり」(アヴィ・ヴァールブルク)、「単純は偉大なり」(アルベルト・ジャコメッティ?西欧絵画の原則)(p065)
リアリズム絵画は物の形体を描くのではなく、物を確かに存在させるために描く絵画(p066)
「現実の持っているすごさ」に立ち向かう意志を支える哲学が必要
リアリズム絵画にとっては、美的であることも絵画的であることもどうでもいいこと
本当の現実は甘いロマンチックな感情はどこにもなく、冴えて澄みきっています(p077)
私の追求しているリアリズム絵画は、ギリシア、ルネサンス、そして現代へめんめんと受け継がれてきた絵画制作思想の背骨となってきたもの
現実空間をひたすら見つめ、それを再創造することを目指す絵画である(p133)
レオナルド、ミケランジェロ、ベッリーニ、フェルメール、シャルダン、セザンヌ、アントニオ・ロペス・・
ヨーロッパの建造物は、その素材が強固であるだけでなく、それを創り出す建築理論が非常に強靭な知性の伝統(揺るぎないものを果てしなく追いかけようろする態度)、すなわち「幾何学」に基づくものである(p139)
知性の伝統や幾何学や公理は強固なものを作りだすためには強固な武器であるが、新しいものを探求しなければならないときには、やっかいな足かせとなる
そこで、リアリズム(物主義、物そのものに立ち向かう態度)という知的方法が重要になってくる(p139)
ギリシア人の考えるリアリズム(プラトンの思想) から新プラトン主義のイデア論は、自然の本質、真実の形を手に入れるためのきっかけを与えてくれる。
真実を見るためのトレーニング、具体的な実践がデッサンである(p140)
詠嘆と情緒に流れていくことをよしとする態度を許してしまう日本の無常観(p174)
「たがり」の習慣(習いたがり教えたがる)があると日本ではリアリズム絵画は育たない(p175)
絶対の孤独こそ西欧芸術の核となるもの(p177)
絶対の孤独とは死であり、生であり、一人静かに死をかけて仕事に没入することなのです。(p177)
物であれ人間であれ、それが本来、孤独であるということを徹底的に突き詰めた末に、はじめて存在することの重みや尊さがかいま見えてくる(p178)

ロダンの言葉抄 (岩波文庫 青 554-1)

ロダンの言葉抄 (岩波文庫 青 554-1)

今年読んで刺激的だった本その2ですが、それは、
『教会の怪物たち ロマネスクの図像学』尾形希和子著 2013年12月刊 (講談社選書メチエ)

おまけです
モモ先生がクロワッサンに書いたそう〜〜

クロワッサン 2014年 12/25号 [雑誌]

クロワッサン 2014年 12/25号 [雑誌]

ガラスの指輪だそう